はじめに
皆さんは工学と理学の違いを知っていますか。人によってその定義は少しずつ異なると思いますが、理学は自然界の基本原理や法則など「真理」を追究し、工学は基本原理や法則をもとにモノづくりや技術開発など「創造」を行っていく学問であると言われています。真理を創造することはできませんが、工学で行う創造は無限の可能性を持っています。たとえば、電磁波は、イギリスの科学者マクスウェルが1864年に「マクスウェルの方程式」を提唱し、その存在を予言しました。また、電波も光も同じ電磁波の一種であることを理論的に証明し、電磁波に関する基本原理が見つかります。電波(電磁波)の存在は1888年、ドイツの科学者ヘルツにより実験的に確認されました。その後世界中の技術者によって、この電波を無線通信に使おうとする試みがなされます。工学による創造の始まりです。最初に成功のきっかけを作ったのは、イタリアのマルコーニだと言われています。マルコーニは1897年、世界初の海を越えての無線通信(約5km)に成功しました。電波の存在が確認されてからわずか9年後のことです。マルコーニはさらに改良を加え、その4年後には大西洋横断無線通信(イギリス-カナダ間約3400km)に成功します。無線通信時代の幕開けとなりました。その後も無線通信技術は進化を遂げ、ラジオ、テレビ、携帯電話、Wi-Fiなど、今では私たちの生活で、なくてはならないものになっています。
電磁波の例は一つの例にすぎませんが、その歴史を調べると、工学は新しい価値を創造し、社会を変革する力を持っていることが理解できます。一方、電波だけで新しい価値が創造できたかというとそうではありません。電波を発生・送信する技術、外乱を排除して正確に受信する技術、受信した信号を人間が理解できる文字や音声に変換する技術など、関連する数多くの技術が融合した結果、新しい価値が生まれます。特にこれからの技術者には、基盤となる専門性のほかに、関連する専門知識や他分野の専門性との「融合」や「学際性」が求められます。加えて、海外の技術者との連携や共同開発作業を行うためのグローバル対応能力やコミュニケーション能力も必要です。
新潟大学工学部では入学後、複数の分野を俯瞰的に学ぶ導入教育から始まり、徐々に各自の専門性を高めていく教育を行っています。またグローバル理工系人材の育成にも力を入れています。新潟大学工学部で学び、新しい社会価値の創造を通して工学で世界を変えましょう。