無線通信システム

無線通信は携帯電話などで私たちの生活に身近なものとなりました.例えばスマートフォンには,携帯電話だけでなく,Wi-Fi(ワイファイ)と呼ばれる無線LANを初めとした様々な無線通信機能が搭載されています.このような用途において高速化,大容量化を目指すのが無線通信の一つのトレンドですが,一方で,スマートグリッド,インフラの監視・モニタリングなどへの応用をターゲットにしたM2M(Machine-to-machine)通信の拡大が期待されています.ここでは先ほどのトレンドとは異なり,シンプル,エコ,長寿命,携帯の10倍以上が予想される数多くの端末をどのように共存させるかといった新たな課題が出てきています.本研究室ではこのような新たな課題を解決するためのワイドバンド(広帯域)無線通信システムの研究に取り組んでいます.
現在の携帯電話の主流はCDMAと呼ばれる方式ですが,現行の直接拡散方式を凌駕する並列組合せ拡散方式は本研究室のオリジナルとして知られています.また,多種多様の現行無線通信方式と共存でき,なおかつ手軽で高速な無線通信方式としてUWB(ウルトラワイドバンド)が注目されています.本研究室ではUWBの信号設計や復調技術の基礎研究を行うと共に,ITU-RにおけるUWBの国際標準化において日本代表の一員としてUWB利用の国際的ガイドラインの作成に貢献しました.現在は,ホワイトスペース(ある無線システムに割り当てられているにも関わらず,ある場所,時間で使用されていない無線周波数)の有効利用を目指したコグニティブ無線技術の研究開発に取り組んでいます.あわせてIEEE802委員会(無線LANなどの国際標準を作成している標準化団体)において,ホワイトスペース利用型無線通信システムの国際標準化に数多く貢献しています.
主な研究テーマ
- ホワイトスペース利用のためのコグニティブ無線技術
- ウルトラワイドバンド(UWB)無線技術
- 無線通信方式
- スペクトル拡散通信方式 など

近年,タブレットやスマートフォンの普及により移動通信の高速ビットレート化への需要が一段と高まっています.2020年頃に実用化を目指す第5世代(5G) 移動通信では,スマートフォンなどに高精細な映像を高速で伝送できるだけでなく,携帯機器のほかあらゆるモノがインターネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)など多様な利用形態も見込まれており,2010年と比較して100倍の超高速化や1000倍の超大容量化が要求されています.現在,移動通信に使われている6 GHz 以下の周波数帯は既に様々な無線システムにより稠密に使われており,第5世代移動通信で必要な広帯域の確保が困難であるため,高い周波数帯の利用が必須と考えられています.金研究室では,第5・6世代移動通信の実現にむけて,狭いサービスエリア内の高速アクセスシステムにおける時空間無線通信路特性に関する研究開発を行っています.第5世代移動通信と次世代超高速無線LANの典型的な運用環境における超高分解能通信路測定とデータ解析を通じて支配的な伝搬メカニズムと周波数による影響の解明や確率論的/決定論的通信路モデルの開発を行っています.
未来社会の姿として提唱されているSociety 5.0の実現に向けて,各種センサにより現実空間のさまざまな情報を収集する技術が重要となっています.特に,対象となるエリアにおける人やモノの位置や動線を,そのエリアの環境情報としてデータ化することが求められる.近年,ミリ波デバイス技術の進歩と高周波数帯利用のニーズに伴いミリ波帯超高速無線通信の普及が進み,今後どこでも手軽に使えることが期待されます.ミリ波無線通信は,広帯域の信号帯域幅の使用とアレーアンテナによるビーム形成が可能であるため,高分解能信号処理により多重波を分離し個別に扱うことが容易です.さらに,従来のマイクロ波帯に比べて小さな物体にもよく反射・散乱するため,ターゲットの形状をより正確に捉えることが可能です.金研究室では,環境情報データ化手法としてミリ波無線通信のメリットを活かした隔週センシング技術の開発を行っています.
主な研究テーマ
- 5G・6Gに向けた無線通信路測定とモデリング
- ミリ波通信
- 時空間信号処理
- MIMO・アレーアンテナ信号処理
- 電波センシング・イメージング など
信号・画像処理

信号処理は,音や光などの物理量をコンピュータで加工・圧縮・解析・推定する技術です。本研究室では特に,画像信号に代表される多次元信号の理論と応用,アルゴリズム開発,システム実装に関して研究を行っています.2000年代以降,スパースモデリングの考え方が目覚ましい発展を遂げていました.間接的なセンシングデータからの計算による標本列生成の性能が向上し,CTやMRI,超音波撮像機器などで標本点の削減や装置の小型化など具体的な成果ももたらされています.スパースモデリングは,ノイズ除去,ボケ除去,画像修復,超解像など画像復元においても高い性能を与えます。特に,信号の特徴を捉えるフィルタ群を併用する例が多く,離散ウェーブレット変換から派生した指向性変換や冗長変換,事例に基づく学習辞書などフィルタ群の設計や実現にも高い関心が寄せられています.
2010年代,人工知能分野に大きな展開がもたらされました.深層ニューラルネットワーク(DNN)によるパターン識別性能の飛躍的な向上です.この成功の背景には,従来のニューラルネットワークからの構造と設計の改善があります.特に画像を対象としたDNNでは,畳込み構造,すなわち画像フィルタを導入した畳込みニューラルネットワーク(CNN)が効果的に利用されています.本研究室でも,多次元信号の復元や認識に利用できるフィルタ群の設計法や実装法で世界に貢献しています.
主な研究テーマ
- 画像・映像信号のための分析・合成システムの開発と実装
- 生体ボリュームデータのノイズ除去および復元(共同研究)
- 車載ミリ波レーダ画像のノイズ除去および復元(共同研究)
- 伝統的工芸品のバーチャルショーケース開発(共同研究)
- IoT/AIによる河床状態推定と防災CPS構築(共同研究) など