卒業生の声
Graduate Voices

今の私があるのは苦労した大学生活があったから


西宮 裕騎さん
公益財団法人 鉄道総合技術研究所 軌道技術研究部 軌道構造研究室勤務。
平成16年3月建設学科社会基盤コース卒業、平成18年3月新潟大学大学院博士前期課程を修了。同年4月に(財) 鉄道総合技術研究所(当時)に入所し、軌道構造研究室に配属。平成23年から2年間 鉄道事業者へ出向し、平成25年から現職。

スケールが大きいものを選びたかった

大学で土木工学を学び、土木技術者になろうと思った経緯をお聞かせください。

西宮:高校時代に、理系の道に進むことは確定していましたが、電気・機械・建築・土木と様々な分野がある中、どの道に進むかどうか非常に悩みました。将来は「ものづくり」をしたいという希望があり、どの分野のものづくりも魅力的であったため、進路選択には非常に時間がかかりました。そして、最終的には「つくるものは大きい方がよい」ということで、スケールの大きなものづくりに携わることができる土木・建築分野を選択しました。

なぜ大学院に進学しようと思ったのですか?

西宮:3年生になった段階で、大学院(博士前期課程)への進学を希望することは決めていました。その頃、研究に魅力を感じていましたが、実験やシミュレーションに関する研究ツールを使いこなすスキルを身につけ、研究を進めるには相当の時間を要するため、学部4年生の1年間でできる研究は限られていると感じていました。そこで、大学院へ進学し、学部4年生で一通り身につけたスキルを基に研究を進めたいと思い、進学しました。大学院へ進学する同期が多数いたため、自然な流れで進路を決めた記憶があります。

あの1年間の苦労が今の私を支えている

土木工学や土木技術についての印象、考え方などに変化はありましたか?

西宮:鉄道システムの中で、土木構造物の建設費用は突出して大きいうえ、日々の維持管理費に占める線路保守の割合は大きいです。それだけ重要な分野ですので、就職後に責任の重大さを改めて実感しました。

学生時代に培った能力で、現在のお仕事で役立っている事(知識,技術,論理的思考,プレゼン能力,語学など)を教えてください。

西宮:私の場合、業務が研究そのものですので、学生時代に培った研究スキルが、直接役立っています。特に役立っていることが、構造解析に用いられる手法の理論を詳細に勉強し、プログラムを作った経験です。大学院博士前期課程の1年目に、新しい研究の基礎となる構造解析理論を把握するため、先生2人と私の3人で教科書と論文を輪講した経験があります。非常に難解な教科書で、1日の輪講のために何時間も悩んで苦労しました。何とか読破した後、それを基にシミュレーションプログラムを作りましたが、これも悪戦苦闘し、完成まで1年ほどかかりました。
非常に苦労しましたが、業務で構造解析を行う上で、この経験は大変役立っています。使用するソフトウェアの説明書には、当時学習した教科書と同じことが書かれてあるだけなので、容易に理解できます。当時の経験がなかったら、内部でどの様な計算を行っているか理解できず、エラーに遭遇した場合は原因の究明が困難になったと思います。
また、専門の構造解析以外でも、鉄筋コンクリートの基本設計や測量技術は、業務に使用する機会があり、非常に役に立っています。一度体系的に学習したことは、何らかの形で業務に生きてくると思います。

“安全・長寿命・経済的”な鉄道を目指して

現在のお仕事の内容について教えてください。

西宮:弊所は鉄道に関する全般的な研究を行っている研究所です。私が所属する研究室では、レールやまくらぎから構成される線路の構造に関する研究を行っています。具体的には、より安全な構造、より長寿命な構造、より経済的な構造をつくることを目指し、研究開発を進めています。
線路は列車の走行による荷重の他、温度変化による熱伸縮の影響を受け、日々絶え間ない負荷にさらされています。しかし、メンテナンスできる時間帯は終電から始発の間に限られ、長大構造物であるためコストがかかります。その条件下で、新しい構造を開発したり、既存の構造を機能強化する方法を開発したり、設計手法を確立するなどの業務を行っています。

現在の仕事を選択した理由を教えてください。また、学生時代に思っていた仕事のイメージとのギャップはありますか?

西宮:大学院(博士前期課程)で研究を進める中、研究に大きな魅力を感じるようになり、将来は研究をメインとする職業に就きたいと考えていました。公務員、ゼネコン、コンサルでは、常に研究に携われるとは限らないため、研究所を第一志望としました。
希望通り、日々研究の仕事をしていますが、学生時代のイメージと違うのは、研究するために必要な他業務が占める割合が大きいことです。構築した理論や構造を証明するために実験を行うことがありますが、その予算確保や機器類の選定・調達などの段取りを行う業務は、論文を書いている時間より長くなります。単調でつらい作業が続くこともありますが、それも含めてやりがいがあると感じています。

就職活動において力を入れたことはなんですか?

西宮:研究所へ就職するにあたっては、自分の研究内容について適切に説明できることが重要であると思います。面接で研究内容を聞かれると思いますので、自信をもって分かりやすく説明できるよう、準備しておくと良いと思います。
弊所の場合、開発したものは鉄道システムに組み込まれ、そのシステムで大勢のお客様に御乗車頂くことになりますので、安全に直結します。そのシステムに不明瞭な理論から構築されたものを導入するわけにはいきません。そのため、真剣に研究を行い続ける意思をアピールすることが重要だと感じています。

これまでのお仕事の経験を通じて、特にやりがいを感じたこと、印象に残っている仕事などがあれば教えてください。

西宮:形状が複雑でシミュレーションが難しいとされた鉄道部品の構造解析業務を行った際、何とか実験と合致する解析手法を構築することができました。世界展開している海外の鉄道部品メーカーの技術者の前で、その成果をプレゼンしたところ、良好な評価を頂いた経験が印象に残っています。このように、研究が認められた瞬間は非常にやりがいを感じます。

これからの土木技術者(社会基盤工学技術者)の役割について、どのような考えを持っていますか?

西宮:私が就職した頃は、まだ鉄道は典型的な内需企業でした。しかし近年、鉄道システムを輸出する動きが、官民問わず進んでいます。私自信も、海外の技術者に日本の技術を説明する機会が増えてきています。今後、日本の技術を海外に適用できる技術者が多数求められることは間違いないと思います。
さらに、国内では少子高齢化に伴い、線路保守の担い手の不足や、地域鉄道の維持が難しくなるなどの変化が予測されています。これらの課題に対処するため、効率的な維持管理を進めるためには、今までの考え方の延長では限界があります。新しい考え方で課題を解決できる柔軟な考えを持った技術者が必要とされていると感じています。

社会人経験で見えた課題や問題点を社会人博士課程で!

大学院博士後期課程への社会人入学について、お聞かせください。

西宮:大学院博士前期課程を修了する際、研究所で働くからには、いずれ博士号を取得したいと考えていました。取得するためには、社会人経験を十分重ね、業界の課題や問題点を把握し、自らが得意とする分野で解決できる糸口まで見つけておく必要があると思っていました。入社後10年が経ち、課題や問題点は十分把握できましたし、近年携わっている研究で解決できそうなテーマが見つかったため、入学を決断しました。もちろん、経済的な不安や入学時期などで悩みましたが、家族の理解が得られ、順調に研究を続けることができています。

これから土木技術者を目指す在学生や高校生に向けて、メッセージをお願いします。

西宮:真夜中に交換した線路の上を、翌朝何事もなかったかの様に列車が走っていきます。知らない方から見れば日常の何気ない光景ですが、それを実施する仕事は大変やりがいがあります。さらに、海外での活躍の場が急速に広がっています。土木技術者を目指す皆さんには、スケールの大きい仕事に携わることに、希望を持って進んでほしいと思います。

所属、敬称などの掲載内容は2017年7月のインタビュー時のものです。