学習・教育到達目標
Program

平成13年1月 制定
平成17年9月26日 改定,平成19年4月1日 改定,平成22年4月1日 改定,平成28年4月1日改定

 工学科社会基盤工学教育プログラムでは、信濃川大河津分水記念碑に刻まれた「万象ニ天意ヲ覚ル者ハ幸ナリ 人類ノ為メ 国ノ為メ」を理念として、人々の安全・快適で持続的な暮らしを支える社会基盤施設を計画、設計、維持管理するために必要な基礎的な知識と技術を修得し、ならびに自然環境との調和や人類の幸福を追求し、実践できる人材を育成することを目的としている。この目的を達成するために、工学科社会基盤工学教育プログラムでは、以下に示す学習・教育到達目標を掲げる。

(A) 人類の幸福と福祉について、固有の文化を尊重しつつ普遍的に考える能力と素養を修得し、持続可能な社会形成に貢献できる社会性と具体的技術を身に付ける。

1. 自然条件・社会的条件の制約の中で、最良のものを創る重要性を認識する。
2. まちづくりの歴史的変遷を理解し、持続可能な都市の設計手法を習得する。

(B) 自然現象を分析するために必要な自然科学・情報技術の基礎知識を身に付ける。

1. 工学技術者にとって共通の素養として求められる自然科学・情報技術の基礎知識を身につける。
2. 自然災害から暮らしを守る土木技術者の役割を理解し、土木技術者として直面する自然現象・災害を分析するための専門的基礎知識・技術を修得する。

(C) 国内外の地域における環境や文化の変遷と土木工学の発展との関係性を理解し、建設技術者としての倫理や地域住民に対する責任を自覚し、地域住民との連携を前提として地域の発展を支える能力を身に付ける。

1. 工学分野、特に建設分野における技術者倫理の重要性を認識する。
2. 社会資本整備に当り、地域住民の立場に立つことの重要性を認識する。
3. 人と社会や環境との関係についての歴史的理解と改善方策を習得する。

(D) 土木工学の主要分野である応用力学、土木材料学、水工学、地盤工学の各分野の基礎知識を修得する。

1. 力のつり合い、構造物に作用する力とモーメントを理解する。
2. コンクリートの基本的特性を理解し、所要の性能を有するコンクリートの製造方法を習得する。
3. 水の物理化学的性質や水理現象の各種保存則を理解し、流体解析に応用できる。
4. 土の性質を理解し、地盤工学に関する基礎的な理論を習得する。

(E) 土木工学に関する実験を計画・遂行し、限られた時間内にデータを正しく解析・考察・取りまとめる能力を身に付ける。

1. 土木工学の主要分野における基本的な実験・試験方法を理解する。
2. 実験・試験における各種測定技法・技能を身につける。
3. 不確実性要素を含む実験データからその傾向を見出し、限られた結果から妥当な結論を導出できる。

(F) 土木工学の主要分野の演習や実習を通して、自己学習の習慣ならびに応用力を養い、問題を解決する能力を身に付ける。

1. 土木工学の主要分野における学問的知識を活かして、基本的かつ重要な工学問題が解決できる。また、その達成のために継続的な自己学習に取り組む。
2. 測量や製図の基本的な知識を演習や実習を通して習得する.

(G) 自分の考えを的確に記述・表現・発表し、建設的な討議ができる能力、および国際的に通用するコミュニケーション基礎能力を身に付ける。

1. 各種実験、卒業研究等の成果を、レポート、報告書および学術論文に的確に取りまとめることができる。
2. 学習成果を整理し、その内容を効果的に説明する技能を修得する。
3. 土木工学に関連する基本的な英文表現の技法を習得し、専門分野における文献の内容を正しく理解できる。

(H) 土木工学の専門的な知識および技術ならびに他分野の科学技術を総合し、必要に応じて他者と協働した上で課題を探求し解決する能力、ならびに生涯学習能力を身に付ける。

1. 土木工学のみならず自然科学・社会科学の知識を総合し、実務における問題解決の方法論を習得する。
2. 土木構造物の基本的な設計計算法を理解し、簡単な土木構造物の設計に応用する。
3. 講義や演習・実習を通して習得した専門工学分野の基礎知識を実務へ応用する。
4. 学術的な調査・研究を通して問題発見・解決能力の継続的な向上を図る。

注) 日本技術者教育認定機構(JABEE)の学習・教育目標(上記)と、新潟大学主専攻プログラムの到達目標は、相互に整合するように設定されています。

■信濃川大河津分水路と青山 士(あおやま・あきら)

信濃川大河津分水路は、わが国最長の信濃川の度重なる水害から越後平野を守るために建設された放水路です。その構想は江戸時代からあり、1870(明治3)年に着工されました。1875(明治8)年に一度工事が中断されましたが、1896(明治29)年の横田切れの大水害を経て、1909(明治42)年に再開され、1922(大正11)年に当時のわが国の土木技術の粋を集めて完成しました。しかし,完成まもない1927(昭和2)年に自在堰(じざいぜき)の陥没事故が発生し、その機能が損なわれる事態となりました。

青山士(あおやま・あきら)は、事故で機能を果たさなくなった自在堰に代わる可動堰(かどうぜき)の建設において指揮をとった土木技術者です。彼は内村鑑三の教えを受け、人類に貢献する生き方を求め続けた結果、治水工事にその生涯を捧げることを決意し、土木工学の道を選びました。大学卒業と同時に渡米してパナマ運河の建設に唯一の日本人として従事し、帰国後は大河津分水路の改修工事や、荒川放水路工事を完成に導きました。

社会基盤工学コースの教育の理念にも掲げられている「萬象ニ天意ヲ覺ル者ハ幸ナリ 人類ノ為メ 國ノ為メ」の言葉は、1931(昭和6)年に可動堰を完成させた時に記念碑の碑文として残したものです。日本語とエスペラント語で記されたその言葉は、時に厳しい一面を見せる自然と対峙する土木工学の本質と、国や地域、人種や文化を超えて科学・工学技術の叡智を人類のために捧げることの大切さを、今日の私たちに伝えてくれるものです。