ガウス積分の一般化


ガウス積分 \begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^{2}} \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \5 ( a \gt 0 ) \label{gauss} \end{equation} を一般化して定数 \(a\) が複素数となる場合について考えてみよう。

2つの複素数 \(\alpha,\beta\) をパラメーターとする積分 \begin{equation} I(\alpha,\beta) = \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx \label{gauss2} \end{equation} を考える。この式で \(\alpha=a\,(\gt0),\ \beta=0\) と置くとガウス積分\eqref{gauss}になるから、\(I(\alpha,\beta)\) はガウス積分の一般化である。式\eqref{gauss}に \(a\gt0\) という条件が付いていることから予想されるように \(I(\alpha,\beta)\) は任意の複素数 \(\alpha,\beta\) について収束するわけではない。そこで、まずは積分が収束する条件について調べてみることにする。式\eqref{gauss2}の右辺を少し変形すると \begin{align*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx &= e^{-\alpha\beta^{2}} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\alpha x^{2}} e^{-2\alpha\beta x}\, dx \\[5pt] &= e^{-\alpha\beta^{2}} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ax^{2}} e^{-ibx^{2}} e^{-2\alpha\beta x}\, dx \6 ( \alpha = a + ib ) \end{align*} になる。ただし、実数 \(a,b\) を使って \(\alpha=a+ib\) と置いた。積分される3つの指数関数を見ていくと、\(e^{-ax^{2}}\) はガウス関数的に増加または減少、\(e^{-ibx^{2}}\) は絶対値 \(1\) で振動、\(e^{-2\alpha\beta x}\) は指数関数的に増加か減少(または絶対値 \(1\) で振動)となるので、十分遠方においてはガウス関数 \(e^{-ax^{2}}\) の部分が被積分関数の振る舞いを決めることになる(ガウス関数の増加や減少のスピードはふつうの指数関数よりも圧倒的に速い)。無限区間の積分が収束するためには、遠方において被積分関数が速やかに \(0\) へと収束していればよいが、もし \(a=\Re\alpha\gt0\) であるなら被積分関数の絶対値はガウス関数的に急速に \(0\) へ向かうことになる。すなわち、任意の \(\beta\) に対して \(\Re\alpha\gt0\) であれば \(I(\alpha,\beta)\) は収束する。なお、\(\Re\alpha\lt0\) と \(\alpha=0\) の場合に \(I(\alpha,\beta)\) が発散することは明らかであるが、\(\Re\alpha=0\) かつ \(\Im\alpha\neq0\) の場合には少し注意が必要である。この特別な場合(フレネル積分)についてはこのページのいちばん最後で述べる。

以下 \(\Re\alpha\gt0\) として \(I(\alpha,\beta)\) の計算を進めていこう。そのために、まず式\eqref{gauss2}の両辺をパラメーター \(\beta\) で偏微分してみる: \begin{equation*} \frac{\d}{\d\beta} I(\alpha,\beta) = \int_{-\infty}^{\infty} \frac{\d}{\d\beta} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx = \int_{-\infty}^{\infty} -2\alpha ( x + \beta ) \, e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx \end{equation*} この式の右辺の積分は容易に実行でき、\(\Re\alpha\gt0\) のとき \(\displaystyle \lim_{x\to\pm\infty}e^{-\alpha(x+\beta)^{2}}=0\) であることに注意すれば \begin{equation*} \frac{\d}{\d\beta} I(\alpha,\beta) = \Bigl[ \, e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, \Bigr]_{-\infty}^{\infty} = 0 \end{equation*} を得る。これより、実は \(I(\alpha,\beta)\) が \(\beta\) に依存しないことがわかる。そのため \(I(\alpha,\beta)\) を \(I(\alpha)\) と書いてもよい。今度は \(I(\alpha)\) をパラメーター \(\alpha\) で微分してみる: \begin{equation*} \frac{d}{d\alpha} I(\alpha) = \int_{-\infty}^{\infty} \frac{\d}{\d\alpha} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx = \int_{-\infty}^{\infty} -( x + \beta )^{2} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx \end{equation*} ここで部分積分の公式 \begin{equation*} \int_{a}^{b} f(x) \, g'(x) \, dx = \Bigl[ \, f(x) \, g(x) \, \Bigr]_{a}^{b} - \int_{a}^{b} f'(x) \, g(x) \, dx \end{equation*} を使うと \begin{align*} \frac{d}{d\alpha} I(\alpha) &= \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{2\alpha} ( x + \beta ) \cdot \bigl( -2\alpha( x + \beta ) \, e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \bigr) \, dx \\[8pt] &= \biggl[ \, \frac{1}{2\alpha} ( x + \beta ) \, e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, \biggr]_{-\infty}^{\infty} - \int_{-\infty}^{\infty} \frac{1}{2\alpha} \, e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx \\[5pt] &= -\frac{1}{2\alpha} I(\alpha) \end{align*} が得られる。これは未知関数 \(I(\alpha)\) についての微分方程式 \begin{equation*} \frac{d}{d\alpha} I(\alpha) = -\frac{1}{2\alpha} I(\alpha) \end{equation*} であり、もしこれを解くことができたなら、積分\eqref{gauss2}を実際に計算することなく \(I(\alpha)\) の値を知ることができることになる。この微分方程式は変数分離形であるため簡単に積分できて \begin{equation*} \frac{dI}{I\,} = -\frac{d\alpha}{2\alpha} \end{equation*} より \begin{equation*} \log I = -\frac{1}{2} \log \alpha + C \5 C:\text{積分定数} \end{equation*} となる。ただし \(I\) や \(\alpha\) が一般に複素数であることには注意しておこう。あとはこの式の両辺を指数関数の肩に乗せればよい: \begin{align} I(\alpha) &= A e^{-\frac{1}{2}\log\alpha} \8 \7 ( A = e^{C} ) \notag \\ &= A e^{-\frac{1}{2}(\ln|\alpha|+i\arg\alpha)} \notag \\ &= A e^{-\frac{1}{2}(\ln|\alpha|+i\Arg\alpha+2\pi in)} \5 ( n = 0, \pm1, \pm2, \dots ) \notag \\ &= \frac{A}{\sqrt{|\alpha|}} e^{-\frac{i}{2}\Arg\alpha} e^{-i\pi n} \label{eq} \end{align} しかしこれで終わりではない。式\eqref{gauss2}の被積分関数は一価関数なので積分 \(I(\alpha)\) もまた一価関数になるはずだが、今のところ \(n\) が偶数か奇数かによって \(I(\alpha)\) の符号が変わるため、これはパラメーター \(\alpha\) の二価関数になっている。また積分定数 \(A\) の値も定まっていない。そこでまずは積分定数の値を定めることにする。幸いにも \(\alpha\) が正の実数のときの計算結果を我々は知っている。ガウス積分の公式\eqref{gauss}より \(\alpha=a\gt0\) のとき \begin{equation} I(a) = \sqrt{\frac{\pi}{a}} \label{eq2} \end{equation} である。一方、式\eqref{eq}において偏角の主値として \(-\pi\lt\Arg\alpha\le\pi\) の範囲を選び、\(\alpha\) に \(a\gt0\) を代入すると、\(\Arg\1a=0\) より \begin{equation} I(a) = \frac{A}{\sqrt{a\,}} e^{-i\pi n} \label{eq3} \end{equation} を得る。式\eqref{eq2}と式\eqref{eq3}は等しいのであるから、積分定数が \begin{equation*} A = \sqrt{\pi\,} e^{i\pi n} \end{equation*} と定まる。これを式\eqref{eq}に代入すると、最終的に積分 \(I(\alpha)\) は \begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{|\alpha|}} \, e^{-\frac{i}{2}\Arg\alpha} \5 ( -\pi \lt \Arg \alpha \le \pi ) \label{gauss3} \end{equation} と計算されることになる。積分定数を決めたことで二価性がうまく消えてくれた。\(\alpha\) の偏角の主値の範囲を \(-\pi\lt\Arg\alpha\le\pi\) と書いているが、積分が収束するのは \(\Re\alpha\gt0\) であったので、実質 \(-\pi/2\lt\Arg\alpha\lt\pi/2\) であることに注意。

ガウス関数のフーリエ変換

上で求めた公式\eqref{gauss3}を使ってガウス関数 \begin{equation*} f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^{2}}} \exp \Bigl( -\frac{x^{2}}{2\sigma^{2}} \Bigr) \5 ( \sigma \gt 0 ) \end{equation*} のフーリエ変換 \begin{equation*} \hat{f}(k) = \int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, e^{-ikx} \, dx = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^{2}}} \int_{-\infty}^{\infty} \exp \Bigl( -\frac{x^{2}}{2\sigma^{2}} \Bigr) \, e^{-ikx} \, dx \end{equation*} を計算してみよう。恒等式 \begin{equation*} -\frac{x^{2}}{2\sigma^{2}} - ikx = -\frac{1}{2\sigma^{2}} ( x + i\sigma^{2}k )^{2} - \frac{\sigma^{2}k^{2}}{2} \end{equation*} を使って被積分関数を変形すると \begin{equation*} \hat{f}(k) = \frac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^{2}}} \exp \Bigl( -\frac{\sigma^{2}k^{2}}{2} \Bigr) \int_{-\infty}^{\infty} \exp \Bigl( -\frac{1}{2\sigma^{2}} ( x + i \sigma^{2} k )^{2} \Bigr) \, dx \end{equation*} という形になるので公式\eqref{gauss3}が使える。公式に \(\alpha=1/2\sigma^{2},\ \beta=i\sigma^{2}k\) を代入し、積分を実行すると \begin{equation*} \hat{f}(k) = \exp \Bigl( -\frac{\sigma^{2}k^{2}}{2} \Bigr) \end{equation*} になる。分散 \(\sigma^{2}\) のガウス関数のフーリエ変換は、分散 \(1/\sigma^{2}\) のガウス関数である。

フレネル積分

一般化されたガウス積分 \begin{equation} I(\alpha,\beta) = \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\alpha(x+\beta)^{2}} \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{|\alpha|}} \, e^{-\frac{i}{2}\Arg\alpha} \5 ( -\pi \lt \Arg \alpha \le \pi ) \label{gauss4} \end{equation} において、これまではいつも \(\Re\alpha\gt0\) を仮定していたが、\(\Re\alpha=0\) であっても積分が収束する特別な場合がある。2つの実数 \(p,q\)(ただし \(p\neq0\,\))を使って \begin{equation*} I(ip,q) = \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ip(x+q)^{2}} \, dx \end{equation*} という積分を考えると、これは収束することが知られている(収束性の証明は行わない)。今知りたいのはこの積分がいくつになるかであるが、実はその計算には公式\eqref{gauss4}をそのまま使ってよい。公式\eqref{gauss4}をよく見ると、積分で書いた式は \(\alpha\) や \(\beta\) の値によって収束したりしなかったりするかもしれないが、右辺の \(\sqrt{\pi/|\alpha|}\,e^{-\frac{i}{2}\Arg\alpha}\) は、たとえ \(\Re\alpha\lt0\) であったとしても、\(\alpha=0\) を除けば全複素平面で定義される表式になっている。したがって、もし積分 \(I(ip,q)\) が収束するのであれば、その値は式\eqref{gauss4}右辺と同じにならなければならない。さて、式\eqref{gauss4}に \(\alpha=ip\) を代入してみよう。簡単のため \(p\gt0,\ q=0\) の場合を考えることにすると、\(\mr{Arg}(ip)=\pi/2\) より \begin{equation*} \int_{-\infty}^{\infty} e^{-ipx^{2}} \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{p}} \, e^{-i\pi/4} = \sqrt{\frac{\pi}{2p}} \, ( 1 - i ) \end{equation*} となる。この式を実部と虚部に分けて書くと \begin{equation} \int_{-\infty}^{\infty} \cos \, ( px^{2} ) \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{2p}}, \4 \int_{-\infty}^{\infty} \sin \, ( px^{2} ) \, dx = \sqrt{\frac{\pi}{2p}} \6 ( p \gt 0 ) \end{equation} という公式が得られる。