人間支援感性科学
プログラム

心と生活をゆたかにする技の創出

すべての人が質の高い生活を生涯維持できる社会を創生するために、新しい考え方や工学的手法、技術開発が求められています。人間支援感性科学プログラムでは、ソフトウェア科学を中心として、医療、心理、福祉、デザイン、音楽、スポーツと工学の融合的科目を学ぶことができます。人を支援し、生活を豊かにする製品・システム・サービスを創造できる実践的人材を育成します。

プログラムの特色

超高齢化、国際化、情報化は日本社会や産業構造の仕組みを大きく変え、私たちの生活も急激に変化してきました。これに対する喫緊の課題は、「心身機能を改善するための医療・介護の高度化・省力化(人を知り助ける技術)」、「健康および身体能力の維持(活動を支援する技術)」、「高齢者・障がい者の生活の質の向上・就労支援(社会参加を促す技術)」の3点です。ネガティブな課題を解決するだけでなく、快適で心豊かな暮らしといったポジティブな側面の実現も求められます。そこで従来の電子情報工学、計測制御工学、生体医工学に加え、医療学、看護学、芸術学(美術・音楽)、健康・スポーツ科学を融合し、「人に関わる知識と経験をもつデータ工学・ソフトウェア科学関連の人材」を養成する新しいプログラムを立ち上げました。文理の枠組みを超えた革新的で美しい「エンジニアリングやアートの新しいカタチ」を創造します。

教育プログラム

  • 専門科目の基礎となる数学・物理に対する充実した支援体制により、文系・理系にかかわらず工学系専門科目にスムーズに対応できる知識を身に付けることができます。
  • 電気回路やプログラミングなどの工学的なものづくりに加え、音楽や造形などの芸術的なスキルと実践的知識を実験や演習を通じて学ぶことができます。
  • 情報・電気電子、機械の各工学分野に加え、地域文化や技術経営、医学・保健の各分野と連携した多様な科目を選択的に学ぶことができます。
  • ソフトウェア科学をベースに、人間支援医工学、スポーツ情報科学、感性科学に関する授業科目を横断的に学びながら、人の感性や感覚、人間工学・医学・芸術・健康科学の多方面から現代の社会的課題の解決にアプローチする幅広い知識と視野を兼ね備えた能力と経験を身につけることができます。

授業紹介

表現素材演習・芸術プロジェクト表現実習

表現素材演習・芸術プロジェクト表現実習
芸術系の領域と融合した実技科目として、モノ造りの原点である手で探る演習・実習を段階的に開講します。また、工学的思考を具現化する方法をその教育環境である専門工房において提供します。

造形素材や音の表現力を得る:
「表現素材演習」では、木材・金属・樹脂・セラミック等の造形素材を用いる制作実習や、音源を用いた表現、演奏を体験し、制作プロセスの学びや、素材感を感じ取る演習活動を行います。

実社会で表現する:
「芸術プロジェクト表現実習」では、工学と結びついた新たな表現活動を実社会で展開してゆきます。地域が抱える問題を解決する装置や、生活空間に創造的な彩りを与えられる人工物工学の研究・テクノロジーと感性表現とで築く新たな表現方法の構築を目指します。

芸術プロジェクト表現実習 アートプロジェクト作品制作
 
コンピュータを用いた音楽制作

福祉情報工学

コンピュータ、タブレット、スマートフォンといった情報機器を実際に触りながら、病気、怪我、障害があっても様々な情報へのアクセスを可能とする支援技術について学びます。
感覚障害・肢体不自由を補うICT技術:
一般的なマウス・キーボード・モニタ・タッチスクリーンをそのままでは使えない人も、支援技術を用いればコンピュータ等を操作できます。身体の様々な部位のわずかな動きで入力できるスイッチや、画面上の文字を読み上げるソフトウェアを使った文字入力演習を通じて、それらの機能を理解し、また、使い勝手について考えます。

AI技術を活用した高度な支援アプリ:
AI技術の進歩により音声認識、画像認識など、聴覚障害者、視覚障害者、その他様々な人に役立つアプリが実用化されています。これら最新のアプリの利用体験を通じて、工学が福祉に役立つことを理解し、工学を学習する目的を再認識します。

呼気を用いた文字入力
音声認識アプリ(左)と画像認証アプリ(右)
指のわずかな動きを用いたPC操作

人間支援感性科学実験IV

医工学、支援機器工学に関連する生体計測に関する実践的な知識と、実験結果を分析・解析する基礎的な能力を身につける授業です。

プログラムの
先端研究

芸術×工学の実践研究と地域への展開

三村 友子 准教授

 芸術系研究室では、工学技術と芸術表現を融合し、新たな表現の探求や人や社会の支援に取り組んでいます。3年次の実習授業や、研究室配属後のゼミ活動、卒業研究において、それぞれの学生が自身のテーマで研究制作を行っています。学内での活動に留まらず、アートプロジェクトや作品展を通して研究成果を地域に展開しています。
 2023年に11回目を迎える「西区アートフェスティバル」(共催:新潟市西区地域課)では、地域の賑わいを創造する地域支援という考えのもと、音楽部門とアート展示部門の2部門で、学生たちの研究成果を地域に公開しました。黒崎市民会館音楽ホールでの演奏と舞台演出や、館内での作品展示、芝生広場の体験型ライトアート(写真1)など、多彩な表現で会場を彩りました。
 2023年1月に新潟市民芸術文化会館(りゅーとぴあ)ギャラリーで開催した「つなぐ展」では、近年の取り組みをパネル・映像で紹介するとともに、授業実践及び研究で制作した作品約25点を展示発表し、多くの方々にご来場いただきました。鑑賞者の動きや心拍、体温などをセンシングしフィードバックすることでリアルタイムに変化する作品(写真2)や、計測した数値をもとに目には見えない事象を可視化した造形作品、VRを用いた仮想現実空間を体験できる作品など、工学技術を用いた幅広い芸術表現を鑑賞・体験できる機会となりました。4年生が卒業研究として制作した《海の呼吸》(写真3)は、呼吸を整えリラックスすることを目的とした、映像・環境音・心拍センサを用いたインタラクティブアート作品です。3Dで制作した海の映像を眺めながら、波の音に合わせてゆっくり呼吸を行うと、センサが脈拍の変化を読み取ります。センサで読み取った値をもとに、映像が明るい昼から穏やかな夕方の景色に変化し、鑑賞者をリラックス状態へと誘導します。大人から子どもまで、様々な鑑賞者が椅子に腰掛けてゆっくりと海の映像を眺める姿が見られました。
 今後も地域との連携をより深めながら、工学とアート・デザインを通して、「心や思考に問いかける」「地域の賑わいを創出する」ことを目指し、人や社会を支援する研究活動に取り組んでいきます。
※ QRコードから作品の動画をご覧いただけます。

黒崎市民会館芝生広場のライトアート
超音波センサで鑑賞者の距離を捉え変化する作品
卒業研究作品≪海の呼吸≫
学生作品動画


芸術工学としての実践研究

橋本 学 准教授
棚橋 重仁 助教

日々変化する実社会において、メディアを用いた芸術表現や、鑑賞者が参加して成立する工学テクノロジを用いた芸術作品を目にする機会が増えています。人間支援感性科学プログラム内でも、教員同士が互いの専門分野の知見をもちよることで工学と芸術の融合を模索した研究をおこなってきました。ここで紹介する作品「Interaction Table- 連鎖」はデザイン表現を専門とする教員と人の知覚・認知特性を明らかにしてきた視覚工学の教員が、生活空間を彩る一つの提案として、人と造形物との関係性を、工学テクノロジを加えて表現し、また検証するために築きました。この作品は環境芸術学会での20周年記念東京大会 (芝増上寺境内) での出展、新潟市西区アートフェスティバルにて展示発表をおこないました。
作品コンセプトは、生活環境の中での設置を意識し、家具としての機能と、キネティックアートとしての視覚表現を組み合わせることです。家具として機能させるために、素材にもこだわり学内にある木工工房にて制作しました。木目の表情が強くないナラ材の正目材を用いています。これは、置かれる空間において構造はニュートラルな表情をもたせたかった一面と、家具として作品に触れることも想定し質の良い素材の選定を考えました。テーブルの設計は、3D-CADでおこないました。また、テーブル面 (作品上面) に配置された100個のコマが連鎖的に運動し表情を変えることでキネティックアートとしての視覚表現をおこないました。すべてのコマの側面にはネオジウム磁石、コマの上面には物体を捉えるセンサが埋め込んであり、コマのうち4個だけがテーブル面から見えないところに配置したモータと接続されています。この仕組みによって、テーブル面に置かれた物体、例えばコーヒーカップ、がセンサに信号を入力し、モータを動かすことでコマとコマが反発を繰り返しテーブル面に配置されたコマの表情が変わります。これらの動作制御は、簡単な電気回路とマイコンでおこなっていますが、磁石の反発力やモータの回転数と初動トルクの関係性は実験的に模索しました。
鑑賞者からは、一見、木工を前面に押し出したアナログな視覚表現に見えますが、人が普段の行動の中で何気なくおこなう「コーヒーカップを置く」という行為をセンサで検出し、コマの連鎖的な運動をプログラミング制御することでデジタルとの融合も成されています。さらに、視覚表現となるコマが配置された盤面は、今後、新たなユニットとして変えられる様に、取り外し可能な設計を施しており、作品の拡張性も有します。鑑賞者の動きと同調する作品の制作を積み重ねることで、われわれが普段の生活で無意識のうちに捉えてきた人の感性の定義を探ることができると考えています。人間支援感性科学プログラムでは、感性を科学することで、人のこころの状態の安定化へ応用すること目指しています。みなさんも人間支援感性科学プログラムで「芸術を科学」してみませんか。

作品「Interaction Table-連鎖」
プログラミングでの検証
制作風景:電気回路1
制作風景:電気回路2

3Dプリンタを活用した視覚障害教育のための立体模型作成ネットワークの構築

視覚障害教育において立体物を触ることでものの概念形成を図ることは大切です。多種多様な立体模型を作成するのに3Dプリンタが役立ちます。これまでに、立体日本地図、東京23区パズル、硬貨の拡大模型、(国語の教科書に現れる)羅城門の復元模型などを作って、盲学校/視覚特 別支援学校へ提供してきました。 提供できる模型の種類を増やすため、3D模型作成技術を持ち、かつ特別支援教育に関心のある人たちのネット ワークを構築し、また模型データをデータベースに登録していきます。

立体日本地図を触察する様子
羅城門の復元3D模型
 

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