卒業生の声
Graduate Voices

仕事が自分にとっての揺るがない使命になる


小関 博司さん
国立研究開発法人土木研究所水工研究グループ水文チーム研究員。
平成24年工学部建設学科社会基盤工学コース卒業、平成26年自然科学研究科博士前期課程修了。同年、自然科学研究科博士後期課程中途退学、土木研究所水災害リスクマネジメント国際センターへ専門研究員として入所を経て、現在に至る。

講義を通して土木の魅力を知った

まずは、高校から大学にかけて、土木工学を学び土木技術者になろうと思った経緯をお聞かせください。

小関:大学受験時は、建築に憧れて建設学科を受験しました。建築を志望していた理由は、建物を芸術品のように設計する仕事がかっこ良く、依頼主と直接係る事にやり甲斐を感じられそうだったからです。その時に社会基盤工学コースを選択することはほとんど考えていませんでした。しかし入学後、土木工学に関するオムニバス形式の講義を聴講して、「建築は建物一つ一つに関する分野で、一方、土木はどこに建物を作るのかを考える分野だと感じて、土木の方が影響範囲が広く、規模も大きいので、魅力的だ。」と認識が変わりました。また、「私には建築的な絵のセンスが無いな」と思ったことも社会基盤工学コースを選択した理由の一つです。そのオムニバス形式の講義で抱いたイメージは、社会人になった今でも変わりません。

なぜ大学院の修士課程に進学されたのですか?

小関:理由は主に三つあります。一つ目は、学部の講義で勉強したことを社会人生活においてどのように使うのかイメージ出来なかったことです。修士に進学して高度な研究をする中で、講義の内容と現場のことが直結するのではないかと考えていました。
二つ目は、何か専門性を持って社会に出たかったことです。学部の講義では構造力学や水理学、土質力学等、多岐に渡って学習しますが、教科書以上のことを知ろうと思うと、どのようにして良いのか分からないし、それを一人でやるのは辛いなという思いがありました。
三つ目は指導教官の勧めです。学部四年生の研究室配属の時点で進学するつもりでした。その一方で、自分がやりたいことは特に決まっていない中での修士進学を受け入れてくれる研究室があったので、そこを選択しました。また、その研究室を選択した理由はもう一つあって、外部との活発な交流があるその研究室に所属し、様々な経験を重ねれば、人前で自分の考えを堂々と話せないという私の欠点を補えるのでは無いかと考えたからです。

目の前で起きている問題に対して切迫感を感じながら勉強している

受験生時代・学生時代・社会人時代で、土木工学や土木技術についての印象や考え方などに変化はありましたか?

小関:受験生時代は、土木技術は完成されていて、技術者の判断は必要とされない分野だと想像していました。
学部1年から3年の土木工学の講義において、受験生時代に勉強した物理や数学が道具として使われていることを実感しました。しかし、技術との関連を実感することはほとんどありませんでした。
学部4年と大学院に進学以降では、講義で学んだ事と現場で起きている現象との関連を明確に理解できるようになってきました。ただし、技術と現場のつながりについては未だ分かっていませんでした。
社会人になってからは、現場で起きている問題に対して真摯に向き合い、その問題解決のためには、土木工学(特に土砂水理学)について学生時代以上に勉強する必要があることが分かりました。また、学生時代の課題は現実味を感じませんでしたが、社会人なってからの課題は今目の前で起きている(起きる可能性が非常に高い)問題を解決しなければならないため、切迫感を感じながら勉強するようになりました。そのような経験が現在社会人をやりながら博士課程で在籍するモチベーションになっています。また、現状の技術や開発途上の技術には講義で学べない様々なアプローチがあることを知りました。技術に関する勉強は土木工学とは別で、もっとシンプルな物理学に基づいていることが多いと感じています。

学生時代に培った能力で、現在のお仕事で役立っている事(知識・技術・プレゼン能力・語学など)を教えてください。

小関:コミュニケーションについてです。研究室配属直後の私は、報告・連絡・相談の適切なタイミングや内容を全く分かっていませんでした。その結果、研究成果をまとめることが出来ずに論文の投稿を逃すことが何度もありました。当時の私は「こんなことは先生や先輩に報告することではない。自分でもっと試行錯誤を繰り返さないと突き返されるだけだし、自分も満足出来ない」と過剰な完璧主義でした。指導教官はそれを感じ取り、毎日のように膝を突き合わせた指導をして頂きました。お陰でコミュニケーションの基本が分かり、就職してから徐々に改善されている気がします。学生の時以上に、切迫感を感じる毎日を過ごしていることも大きな要因になっているかもしれません。
また、私は研究室に配属される前からTOEICの勉強を続けていました。その理由は、将来英語が出来ていると世界が広がるんじゃないかという漠然とした期待があったからです。しかし、実践する機会に身を置くことが無いまま、研究室配属を迎えました。配属後は、研究のツール開発において、インターネットに溢れる英語の情報を集めることが多かったので、主に読解能力を鍛えられました。
また、最初の就職先は実は日本語が話せない外国人の研究者も在籍する部署でした。打合せや懇親会での会話を英語で行う事が多いため、読む力だけでなく、話す力も求められます。任期付職員になった当初は自分で何を言っているのか分からない状況でしたが、今では日常会話だけでなくて、技術的な会話も何とか出来るようになってきました。
AIのお陰もあって近い将来にいろんな通訳ツールが開発されそうですが、自分の意志で単語を選んで会話出来るのは、人間にしか出来ないことかと思います。私はそういう意味では英語をツールとして使えるようになることに利点があると考えています。

我々の仕事は国内外に広がっています

現在のお仕事の内容について教えてください。

小関:現在は土木研究所に勤務しています。私が関わっている河川分野に限った話ですが、土木研究所は二つの立場で振る舞うことが求められます。一つ目は現場の技術者、二つ目は研究者です。技術者としては、全国に新しい技術を普及させるための基準づくりや、新しい技術を現場に実装するための助言を求められます。研究者としては、河川管理に資する技術開発や現象解明のための研究成果を求められます。

なぜ現在の仕事をしようと思ったのですか?

小関:指導教官からいろんな業種の方と会う機会を頂いている中で、前述のように土木研究所は技術・研究への貢献を求められることに魅力を感じました。それに加え、国土交通省という国の中枢の近くで仕事をさせて頂ける環境にあることにも魅力を感じました。

学生時代に思っていた仕事のイメージとのギャップを教えてください。

小関:土木研究所での研究業務は、自分たちで実施する実河川の観測や模型実験によるデータの取得と解析だけでなく、河川管理者が取得したデータの提供も受けられ、それらの解析が業務の半分を占めています。現場のデータを解析する機会はとても勉強になり、土木研究所の立場からどのような貢献が出来るのか考えさせられます。

就職活動において力を入れたことはなんですか?

小関:私の場合は、民間以外のいろんな種類の就職活動(国家公務員総合職技術職、研究職、任期付研究員、県職員)を体験しました。特に総合職試験においては、研究室の仲間と試験勉強の講座を開いて、一人で考え込まず議論しながら勉強することを意識しました。

これまでのお仕事の経験を通じて、特にやりがいを感じたこと、印象に残っている仕事などがあれば教えてください。

小関:やりがいを感じた仕事は、2015年に、ある試験観測の段取りを全て任されたことです。何のために観測をするのか、そのために必要な観測機材や観測位置は何か、また、各機器の設定をどのようにするのかを決定できる立場にありました。しかし、観測に関しては社会人になって勉強し始めたばかりなので、観測に協力して頂く技術者の方々と比べたら知っていることは僅かです。そこで私は何をやりたいのかだけは明確にするように気をつけていました。当時は分かっていませんでしたが、あのような仕事が土研における仕事のやり方かと思います。つまり、河川管理者のためのビジョンを明確に持って、それを各技術のスペシャリストに共有し、現在の技術でどこまで出来るのか、技術開発が今後必要な部分はどこかを協議していくというプロセスです。私は、土研の魅力は産学官それぞれに関する目標を明示しながら自分達も手を動かして仕事できる立場にあることだと感じています。

進路や就職活動を節目に自分の進路を一生懸命考えてください

同業種の就職先を考えている学生へ伝えたいことはありますか?

小関:同業種だけでなく、私は自分自身が何者なのかと、目指す仕事についての関係を知ることが就職活動において大切だと思います。私はそれが分かるのに他の人よりも時間がかかったと思います。もし、その時期を早める工夫が出来たとしたら、色んな人に積極的に自分の考えを伝え、フィードバックをもらうことが大切だと思います。最初は考えの質を気にせず、量を出力することも心掛けたら良いと思います。

これからの土木技術者(社会基盤工学技術者)の役割について、お考えを教えてください。

小関:私が経験した河川分野に関しては、日本の土木技術者の役割は国内向けと国外向けでそれぞれあると思います。国内向けについて、近年災害が激甚化しつつある一方で、社会的には日本の人口が減少し、管理に携わることのできる人数は減る可能性が高いです。そのような社会情勢の中でどれだけ人とお金をかけずに管理するか構想を練ったり、技術開発したりするのが国内向けの役割です。海外向けには、私が経験した中では日本ほど変化の激しい洪水土砂災害が多発する国は多くありません。そのような厳しい環境で構築された日本の技術を求める海外の国は多いです。そのような国が求めるニーズを把握し、日本の技術を適応させるような実装を行える日本の技術者が、今後ますます必要になると思います。それは日本の技術を輸出することで日本が潤うことにもなりますし、日本の技術力を維持することにもつながります。

土木技術者を目指す在学生や高校生に向けて、メッセージをお願いします。

小関:土木業界に携わる方は、産学官や職種に関わらず「災害から人命を守りたい」「人々の生活に安心を提供したい」という共通の目的を持っていると思います。その中で各々の適性や様々な運命で現在の仕事に就いていらっしゃるのだと思います。在学生や高校生の方には、自分自身にとって揺るがない使命として何があるのか、そしてその使命と自分という人間と仕事の三者がうまく噛み合えば、幸せな社会人生活を送ることが出来ると思います。私自身もまだ、どんな仕事のやり方が自分に適しているのか明確な答えに辿り着いていません。皆さんも焦って答えを求める必要はありませんが、就職活動や進路を考える節目に自分の中でどの方向が良いのか一生懸命考え、行動することが重要かと思います。

所属、敬称などの掲載内容は2017年7月のインタビュー時のものです。